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理美容鋏の海水による影響


理美容鋏が海水に触れた場合にどの程度の影響が出るのか実験をおこないました。

実験を行うに至った経緯

東北地方太平洋沖地震を原因とする津波で多くの被害が出た中で、鋏が海水に浸った例が多くあるとの話をお客様より伺いました。それを受けて理容・美容の鋏が海水によってどのような影響をうけるのか、少しでも参考になればと思い実験を行うことにしました。

※ご注意ください

この実験はシザーズプライムが独自に行なったものであり、刃材・ハンドル材の違いや実際の海水(様々な成分が溶け込んでいます)を使用した場合等、細かな条件の違いで結果が大きく変わる可能性が御座いますので予めご了解ください。


使用サンプル

当店で通常使用している刃物鋼材を使用しました。

刃材  :スーパーゴールド
ハンドル:ステンレス


実験方法

まず海水と同じ濃度の食塩水を作ります。
海水の平均食塩濃度 ≒ 3.5% とのことなので、
水 300ml、食塩 10.5g 混ぜることで3.5%の食塩水を用意しました。
水 300ml、食塩 10.5g

図のように半分ほどを食塩水に浸し実験を行いました。
半分まで浸しました 実験の様子


結果

■刃部分の経過

popup,実験前の状態
実験前の状態:実験前に刃を研いであります。

popup,30分経過
30分経過:特に変化はありません。

popup,1時間経過
1時間経過:ごく僅かですが、裏刃に錆(さび)が発生しています。

popup,2.5時間経過
2.5時間経過:裏刃部分に所々はっきりと錆が出ているのが分かります。

popup,6時間経過 popup,6時間経過 表刃
6時間経過:裏刃を中心に錆が広がってきました。

popup,12時間経過 popup,12時間経過 表刃
12時間経過:錆が表面だけではなく、内部まで進行している状態です。

■ハンドル部分の経過

popup,ハンドル 12時間経過
12時間経過:ハンドル部分には錆の発生は認められませんでした。


修理をおこなう

食塩水の中で12時間経過した錆の状態から、どのように鋏を研いで修理を行っていくのかを説明します。
※画像をクリックすると拡大表示します。

1 バフ掛け・裏押し

popup,バフで錆を取り、軽く裏刃を研いだ状態
バフで表面の錆を取り、裏刃を軽く研いで錆の状態を確認。ピンホールが無くなるまで削らなければなりません。

2 さらに裏押し

popup,裏刃をかなり多く研いだ状態
裏研ぎをかなり行った状態(1の状態と比較して裏刃の幅が太くなっているのが分かります)ですが、
まだピンホールが残っています。かなり深くまで錆が進行していたことが分かります。

3 表刃・裏刃を削る

popup,ピンホールまで削った状態
表刃と裏刃をピンホール部分まで削った状態。裏スキ部分にピンホールが残っていますが、
使用には影響がない部分ですのでそのままで仕上げます。

4 先端を詰めて完成

popup,先端を詰めて研ぎ完了 popup,研ぎ完了 表刃
安全の為、細くなった先端を詰めて角を丸めました。
刃線・刃角度・かみ合わせの状態を崩すこと無く無事に研ぎが完了しました。


やってみて分かったこと

今回の実験で、鋏の錆は切れ刃を中心として広がっていくことがよく分かりました。
予想ではそれほど深くまでは錆が進行しないと考えていましたが、12時間経過時点でかなり深くまで錆が進行していたことに驚きました。

■意外と深かったピンホール状の錆

このようなピンホール状の錆は古い鋏などでも時折見られるもので、穴が深いと研いでも研いでも刃こぼれの状態が続いてしまうため完全に再生させることは難しい状態です。
修理する方法としては今回のように鋏を短くすることを覚悟の上で、表刃・裏刃をピンホールが発生しなくなるまで削り仕上げるしか方法はありません。
それでもどの程度削ればピンホールが消えるかは実際に作業を行ってみなければわからない部分が大きく、想像以上に削らなければ直らないといったケースも考えられます。

■ハンドルが錆びなかった訳

ハンドル部分が錆びなかった理由としては、今回の実験で使用した鋏は刃とハンドルで異なる金属を溶接していることが要因です。

  • 刃の部分はクロムが14%以上入ったステンレス鋼の一種であるスーパーゴルド
  • ハンドル部分は刃物用の鋼材ではない、いわゆる一般的なステンレス

台所の流し台やスプーン等を見ていただいてわかるとおり、一般的なステンレスは錆に非常に強いので水気や、塩気が多少あっても問題なかったと考えられます。
ステンレス鋼は炭素(C)が入っている為焼入れすることで硬くなり、刃物としてよく切れる様になりますが炭素が入ることで、錆に対しては一般的なステンレスと比較すると弱いと言えます。


修理をおこなって

12時間経過した状態ですと、かなりの深さまで錆が進行していた為に裏刃の部分のピンホールまで刃全体を削る必要があると判断しました。
ピンホールが出ている部分まで削ることで鋏が細くなったため、先端が尖りすぎていて危険なので先端を3ミリほど詰める必要がありました。結果として短くなりましたが、カットには全く支障のない状態まで修理することができました。

今回の研ぎで削った量としては通常の研ぎの5回~10回に相当する量となります。

もっと軽度で表面的に薄く錆が出ているような状態であれば通常の研ぎとほとんど変わらない削りで修理可能なケースも十分に考えられます。
錆が出ている鋏がございましたらあきらめないで、当店にご相談ください。



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